自然写真家・大竹英洋さんのトークイベント【イラストレポート】

この記事は、2019年7月19日にアウトドアショップ「UPI OUTDOOR 鎌倉」で開催された、自然写真家の大竹英洋さんのスライド&トークショーの感想です。
そこでみた写真、動画、大竹さんのお話やお人柄など、どれも素晴らしく、震えるほど感動しました。
はるばる鎌倉まで行って、本当によかった。

この感動を共有したいとイラストを描き始めたものの、全然だめ。あの写真や動画のすばらしさが、まったく表現できない!
そのままお蔵入りになっていました。

ですが。
昨日(2020年6月20日)、インスタライブで大竹さんのお話を伺いました。
大竹さんの初めての写真集「THE NORTH WOODS 生命を与える大地」刊行記念として企画された、銀座蔦屋書店主催のインスタライブです。ふだんは聞けない撮影のエピソードが盛りだくさんで、とっても楽しかったです。

去年の感動を思い出しました。
それで、イラストをひっぱりだしてみました。いま見たらそこまで悪くはないけど…。
やっぱり、あの素晴らしい写真の足元にも及びません。
でも、多くのひとに、彼の素晴らしさを知ってもらうほうがいい。

そういうわけで、今更ですが感想を書きます。
イベントの翌日に書いた長い日記を、ブログ用に加筆・修正したものです。


追記(20206.6.23)
なんと、大竹さんご本人からコメント(補足)をいただきました。とっても丁寧に詳しく教えてくださいました。写真展の準備でお忙しいなかなのに、めっちゃいいひと…!許可をいただき、補足部分を追記しました。

大竹英洋さんスライド&トークショー

ノースウッズについて

大竹さんは「ノースウッズ」を撮影のフィールドにしています。
ノースウッズは、カナダとアメリカの国境付近から、北極圏にむけてひろがる地域。
10,000年前の最後の氷河期によって残った湖が、数え切れないほどたくさんあります。世界最大の原生林のひとつでもあるこの地には、カリブーやオオカミ、ホッキョクグマなど、さまざまな野生動物が生息しているそうです。冬になると、気温はマイナス50度にまで下がる厳しい環境。そのなかで、たくさん生きものたちが、自然のままに暮らしています。

カナダガンとライチョウ

今回のスライドトークでは、写真だけでなく動画をたくさん見せてくれました。
音のあるなしで、臨場感が全く違うことに驚きました。

最初は、ノースウッズ湖畔の明け方の動画。
湖のほうに入り口を向けて、テントを立てる。
明け方に聞こえてくる、たくさんの鳥の鳴き声。テントの中にも響き渡る。
これはカナダガンの鳴き声。

次は、太鼓を鳴らすような低いビート音。さいしょはゆっくり、だんだん早くなる。
これはライチョウの「ドラミング」という求愛行動。
羽を空気砲のように使って音をだす。

ガンの声は特徴的なので、すぐにわかりました。
ドラミングは迫力があって勇壮だけれど、ライチョウの顔はとっても可愛らしかったです。

ライチョウのドラミングはキツツキと同じように自分の縄張りを主張するためのものです。が、求愛行動にも含まれるらしいので間違いではないと思います。ただ、求愛を主な目的とした行動は別にあり、尾羽を広げ、首の周りの羽をエリマキのように逆立てて、メスに向かってダンスをします。

大竹さんの補足

テントとカヌー

撮影の時は、3週間、森のなかでひとりきりで生活する。

撮影は、3週間と決めているわけではなくて、大体1〜4週間森に入ります。(『春をさがして』で描いたカヌーの師であるウエインとの旅は3週間でした。)

全部の撮影をカヌーでするわけではなくて、実際には車や飛行機も必要に応じて使います。ただし、自然の奥を旅することが好きで始めた僕にとってカヌーで旅をすることは大事な表現活動の一つなので、できるだけカヌーの旅もしたいと思っています。

大竹さんの補足

テントはだいぶ大きい。なかは、大人の男性が立って歩きまわれるくらいのスペースがある。
マキストーブもあった。油とフライパンを持って行き、川で釣った魚でフライも作る。
荷物は、すべてカヌーで運ぶ。カヌーを使うと、たくさんの荷物を運ぶことができる。
使うものは、なるべく自然素材のもの。テントもバッグも丈夫なキャンバス生地。

とっても快適に生活できそうでした。
できるだけ荷物を軽くする登山とは、全く違うなあと思いました。

ほんとそうですね。僕も大学時代の山登りではできるだけ荷物を軽くすることを考えていました。

でもウェインのような昔ながらのカヌーの旅のスタイルと出会って、登山とは別の、自然の中で暮らすように旅をする楽しみがあることを知りました。

大きめのキャンバステントで野営したり、たくさんの薪を切ったり、魚を釣ったりすることは確かに自然にインパクトを与えもします。

が同時に、道具を使いこなしたり、自然からの恵みを得ていく過程で、その土地の自然への理解が深まったり、感謝の気持ちが生まれたりします。

もちろん、そもそも利用する人の少ない場所なので、そうした旅も可能なのかなと思いますが。

大竹さんの補足

木製のカヌーは、ほんとうに静かに移動できる。
エンジン音がない。パドルが水を捉えるかすかな音がするだけ。
カヌーに座ると、湖に視点が近くなる。手をのばせば水に触れる。視界の半分が森、半分は水。漕ぎだすと、まわりの風景だけが、ゆっくりスクロールしていく。
むかしは白樺の皮をつないで木の骨組みに貼り、動物の脂や樹脂で目止めをしてカヌーを作っていた。

湖と湖の間は、カヌーを持ってポーテッジする。「ポーテッジ(portage)」というのは、カヌーに乗ったままでは越えられない場所を、カヌーをかついで、歩いて越えること。「ポルタージュ」とも言う。
短いと100mくらい、長くても500mくらい。

あくまで、僕がよく旅する、カナダ・オンタリオ州のウッドランド・カリブー州立公園での話ですが、、、
短いと20メートル。そんな時は、カヌーを担ぐ前から、もう次の湖が見えています。
長いと2キロなんてのもありますが、そんなのは稀で、多くは200-600mぐらいですね。

大竹さんの補足

荷物をすべておろし、カヌーを両手で抱えるように持ち上げて、いったん腰で支える。それから、少し反動をつけて「せーの、よいしょ!」と頭の上に乗せる。ひっくり返したカヌーを、頭のてっぺんで支えるような格好になる。ヤジロベーみたいになり安定する。カヌーは50kg近くの重さがある。必要なのは、力ではなくバランス。

僕のカヌーは木製でも小さめなので35キロぐらい。ウェインのは45キロあり、さらに雨に濡れたりすると50キロになります!

大竹さんの補足

湖と湖の間には、トレッキングコースのような道がある。むかしから、このあたりの住民が踏み固めてできた道。そこをたどっていく。3週間分の荷物は一、度では運びきれない。何回か往復して運ぶ。

カヌーを担いで木々の間を歩くと、カヌーと枝がこすれる音がしていました。
頭にカヌーを乗せていても、視界は広いみたい。

ヘラジカ

ヘラジカ撮影のエピソード。

撮影のために、発情したメスの声をまねして、ヘラジカのオスをおびき出す。
白樺の皮で作ったメガホンを使う。3回鳴いて、15分まつ。それを4回くりかえす。

鳴き声を実演してみせてくれました。想像よりも落ちついた、小さい声。牛の鳴き声に似ていました。

小さい声でも、ノースウッズでは2km先くらいまで聞こえる。
2km先にオスがいたとすると、ここまで歩いてくるのに1時間くらいかかる。
鳴きすぎはよくない。本物っぽくない。
ヘラジカのメスは、1年のうち24時間しか発情しない。
その瞬間は個体差があり、全体的には2週間程度。
メスは発情すると鳴く。オスはその声を待ちこがれている。

いつも遠くまで聞こえるわけではなく、条件が良ければ、、つまり、静かな風のない朝であれば1-2キロか、それ以上届くと思います。そういう時はぐっと冷え込んで霜の降りた朝になることが多いです。

(歩いてくる時間について)細かく言えば、そのオスによります。慎重に近づいてくると一時間はかかります。興奮してすっ飛んでくるオスだともっと早いですが。。。

大竹さんの補足

森の中でじっと待っていると、そのうち音が聞こえてくる。
枝や落ち葉を踏む音、角を木にこすりつける音、興奮してのどを鳴らす音。
音がした方にカメラを向ける。木々が揺れているのが見える。彼がこちらにくる。

大竹さん曰く、「ヘラジカにもこちらは見えていると思う。」
ヘラジカは「このあたりから声がしたと思うんだけど、あいつじゃねえしなあ」という感じ。

僕はここまで至近距離になったら、もうじっと音を立てずに、だまして申しわけない気持ちで彼が立ち去るのを待つ。狩りをする場合は、石の鏃の弓矢で打つので、もっと至近距離でないと致命傷は与えられない。狩りでは、興奮したオスの声をまねする。そうすると「ここは俺の縄張りだ。なんだ、やるのか」と怒って近づいてくる。もちろん、そういうことは僕はやらないけれど。

森のなかからゆっくりと現れた大きなヘラジカ、めちゃくちゃかっこよかったです!

大竹さんは、小学校などでもスライドトークをすることがあるそう。
子供たちは、ヘラジカが登場すると「恐竜!!恐竜だ!!」と大騒ぎになるとか。
そのくらい迫力がありました。

声をまねして呼びよせることを申しわけないと思ったり、怒らせるようなことはしないと言ったりする大竹さんは、とっても優しいと思いました。

撮影のために騙してしまうのは、やはりいい事ではないですよね。
でも、その美しく立派な姿を伝えるにはこうするしかなくて。。。

大竹さんの補足

水上飛行機

カヌーではなく、水上飛行機を使って移動することもある。
水上飛行機は浮舟みたいな足(英語ではフロートと言うそうです)がついているので、水上で離着陸できる。

この水上飛行機は、とってもビンテージな乗りもの。素晴らしくデザインがよい。エンジンは新しく変えたりメンテナンスしたりしているが、本体はいまだ現役。

ノースウッズには高い山がない。ふだんは、地上から全体を見渡すことはできない。
こうして飛行機で上から眺めると、また格別。
地平線が、森でできている。
このようにして空撮することもある。

水上飛行機は、「紅の豚」に出てくる飛行艇みたいだと思いました。レトロで、全体が黄色くて、かわいかった。
水上からの離陸シーンを機内から撮影した動画を見せてもらったけれど、あまりになめらかで、いつ離陸したのかわからなかったです。

騒音は物凄いですよ。動画ではわからないかもしれないですが、湖面を進むときの振動も相当なものです。でも離水した瞬間に激しい振動がなくなるので、いつ水から離れたかは、乗っていると結構わかります。

大竹さんの補足

オオカミ

大竹さんのライフワークでもあるオオカミの撮影について。

オオカミにはなかなか出会えない。
昨日のインスタライブでも、20年撮影していて、オオカミに出会えたのは10回くらい。撮影できたのはそのうちの半分くらい。あとの半分はサッと逃げられてしまったと言っていました。

その貴重な撮影ができたときのエピソード。

ついさっきついた、オオカミの新しい足跡を発見。それを追って森の中へ。
足跡が群になる。ずっと追っていく。近くにいたことは間違いないのに、姿は全く見えない。
「あそこの曲がり角からのぞいたら見えるのでは」という思いで何度ものぞいてみるが、だめ。
もう諦めようと思った。でも、その前に一度試してみたいことがあった。
オオカミの習性を調べている友人に習った「遠吠え」。
オオカミは群で生活している。その群からはぐれてしまった一匹が「みんなどこにいるの?僕はここにいるよ!」と呼びかける声。
ヘラジカもそうだが、見通しの悪い森のなかでは、生きものは声を使ってコミュニケーションをとる。

ちょっとやってみますねと実演してくれた遠吠えを聞いて、鳥肌が立ちました。なんともいえない気分になり、ちょっと泣きそうになってしまいました。ヘラジカの時とは違う、大きく響きわたる声でした。

それに反応して、群から返事があった。
わっと押し寄せてくる鳴き声。何頭いるかわからない、たくさんの鳴き声が森に響き渡った。
「しまった、僕はオオカミに囲まれている。」
すると、道の向こうに一頭のオオカミが姿を現した。
一頭だけ。
彼はしばらくじっとこちらを見つめた後、森の奥に向かって数回遠吠えをした。
それから、森の奥に姿を消した。

また戻ってきてくれないかと、もう一度遠吠えをしてみたが、森はシーンとしていた。

その後、遠吠えを教えてくれたオオカミに詳しい友人にこの話をして、たどり着いた解釈はこうだ。

オオカミの群は、血縁関係で構成されている。
リーダーのオス、お父さん。その妻。そして、その子どもたち。
子どもたちは大きくなると独り立ちするが、若いオオカミは群れを支える手伝いをしている。
人間の遠吠えは、人間にはどんなにオオカミらしく聞こえても、オオカミには「これは違う」とわかってしまうだろう。けれども、若いオオカミは、経験不足から反応してしまうことがある。
今回、遠吠えが返ってきたのは、若いオオカミから。群を形成しているオオカミが若かったのだろう。
1頭だけ現れたオオカミは、群のリーダーであるお父さん。
お父さんの遠吠えは、「おまえたち落ちつきなさい、あの声は私たちの仲間ではなかった。」と子どもたちを窘めている声だった。
これはわたしたちの解釈だから、実際のところは彼らに聞いてみないとわからないけれど。

オオカミの遠吠えの動画が映画のようにドラマチックで、ほんとうに素晴らしかったです。
写真では気づかなかった、細かい雪が降っていました。美しかった。

あの動画を撮影したのは11月半ばだったので、その年に生まれた(大体4月末)オオカミは生後6−7ヶ月で、まだ若いですよね。そういうのが反応してしまうのだろうと思います。

大竹さんの補足

孤独を楽しむ

迷彩テントのなかで、1週間じっと待ち続けることもあるとか。

「3週間も森のなかでひとりきりで、怖かったり寂しかったりしませんか」という質問がありました。
大竹さんは「孤独を楽しみます」と答えていました。

自然や動物の話をしているとき、大竹さんはなんとも幸せそうな表情をしています。
わたしは、彼の自然へのまなざしが好きです。
わたしは、「そして、僕は旅に出た。」という本を読んで彼のことを知りました。
文章に、自然への優しいまなざしが溢れていました。それが写真にも現れていると思います。
一度お会してみたい。そう思って、今回のトークイベントに参加しました。
お話を伺って、ますますファンになりました。

それだけの孤独を感じられる時間も空間も、この地球上ではとても貴重ですから。

大竹さんの補足

大竹英洋さんの写真展と書籍

写真展

昨日のインスタライブのアーカイブは、銀座蔦屋書店の「トラベル」アカウントで見ることができます。

第二回も開催決定しています。やったね!
6/25(木)18時より、同じく 銀座蔦屋書店トラベルのアカウント にて。

終了しました。
同じく銀座蔦屋書店の「トラベル」アカウントでアーカイブを見ることができます。

大竹さんは6月26日(金)〜7月9日(木)まで、富士フィルムフォトサロン大阪で写真展を開催中です。
その会場からの中継でした。今回も楽しかった!

ほんとうは、2月下旬〜3月上旬にかけて東京でも写真展が開催される予定でした。
残念ながら、コロナの影響で中止になってしまいました。
安全が最優先ですが、東京開催も首をながくして待っています。

写真展の詳細はこちら。
富士フィルムフォトサロン大阪
10:00~19:00(入館は終了10分前)
◆7/2(木)と最終日は14:00まで。
◆入場無料です。
◆6/28(日)は休館です。ご注意ください。

近くにお住まいの方は、ぜひ足をはこんでみてください。
魂が洗われます。

書籍

個人的に好きな本を3冊。

大竹さんのはじめての写真集。写真家としての20年間の活動の軌跡がぎゅっと詰まってます。自然や野生動物だけでなく、旅や先住民の文化といったノースウッズの多様な魅力を伝える一冊です。

写真家を目指すことを決意した大竹さんが、たったひとり、カヌーで旅をしながら、ノースウッズに住む写真家ジム・ブランデンバーグに会いにいく。さまざまな体験を綴った紀行文。何回も読んでいる大好きな一冊。
サインしてもらいました❤︎

「僕のカヌーの旅は、すべてウェインと同じことをしているだけ」
大竹さんは、そう言っていました。
ウェインは大竹さんのカヌーの師です。カヌー旅の様子をたくさんの写真とやわらかな文章で綴った写真絵本。
湖で釣った魚をパドルの上でさばいて食べるシーンが好き。ごちそう。