「みつはしちかこ展」チッチとサリーとピアノの部屋の話。
みつはしちかこさんの『小さな恋のものがたり』は、母が好きでした。
宇都宮にあった母の生家の本棚に、コミックが揃っていました。
トトロに出てくるサツキとメイの家みたいな古くて大きな家で、わたしにとっては「おじいちゃんとのなちゃん(祖母のこと)のおうち」だったけど。
夏休みや冬休みになると、家族で泊まりに行くのが我が家の慣例でした。
玄関を入ってすぐ右手にピアノがある部屋があって、そこの押入れに母が若い時に読んでいた漫画がたくさん入っていました。
チッチとサリーの絵をみると、わたしの脳裏に浮かんでくるのはあのピアノの部屋です。
よく本を借りている町田市の中央図書館にポスターが貼ってあって、開催を知りました。
みつはしさんは、町田市玉川学園に長くお住まいだったのですね。
図書館からほど近い「町田市民文学館ことばらんど」で開催されているとのことで、見に行ってきました。
母が生きていたら、誘って一緒にいくところなんだけどな。
町田市民文学館ことばらんどは、レンガ色のかわいらしい建物。
1階の受付でチケットを買い、2階の展示室へ。
階段を登ると、目の前に大きなパネルが。
出版社などからの祝い花が華やか♪
踊り場全体がフルーティーな香りに満ちていて、いい気分になります。
観覧料が良心的すぎる。
展示室には、代表作『小さな恋のものがたり』『ハーイあっこです』の初期原稿やカラー原画、ラフスケッチ、愛用の画材などが展示されていました。
読んだことのある作品をみてニコニコしたり、カラー原画の美しさにため息をついたり。
コミックの表紙などに使われているような、四季が感じられる色とりどりの風景の中にチッチとサリーがいるカラーイラストが、とても好きです。
水彩で描かれた自然の美しい色と、シンプルな線で描かれたキャラクターっていう絶妙なバランス。めっちゃ勉強になる。
わたしは『小さな恋のものがたり』しか読んだことがないんだけど、旦那ちゃんは新聞で『ハーイあっこです』を読んでいたらしく、原画を見て「懐かしい〜」と言っていました。
これは撮影OKだったパネル。
雑誌「いつかどこかで」で描いた玉川学園の散歩道マップの拡大図。
チッチとサリーを描く時には、B3の鉛筆で真っ黒になるほど下描きの線を書いてから、つけペンでペン入れをしていたそうです。
シンプルな線の裏には、試行錯誤があったのですねー。
しかし、2010年に大病を患ったあとは手が震えて、チッチの丸い顔が上手に描けなくなってしまったと……。
それでも、繰り返しチッチを描き続け、練習を続けて再び描けるようになったというエピソードを読んで、じーんとしました。
現在は、それまでのつけペンで描く方法に変わって、黒い水性ペンを使用して描いているとのこと。
この水性ペンが、わたしが使っているのと同じピグマのミリペンだったので嬉しくなりました。
ちなみに水彩絵の具も、同じホルベインのでした♪
というか、『小さな恋のものがたり』がまだ続いていたのに、びっくり!
正確には、2014年の最終巻で53年(!!)の歴史に終止符をうち、今年2018年に「特別編」その後の話としての新刊が発売になりました。
おもわず買っちゃったよ。
チッチとサリーは高校生だったのねー。
そんなことも、当時はよくわかっていなかった……。
小学生だったわたしは、もうあと数年で40に手がとどくというのに、チッチはずっと16歳だわ。
アンケートに記入すると、展示の小冊子が貰えます。
わたしは大規模な展覧会よりもこぢんまりした展覧会が好きで、この展覧会は展示数もちょうどよく、見やすくて満喫できました。
12月24日までの開催。
観覧料が無料になる日や、ご本人がトークをするイベントもあるようです。
展覧会の詳細はこちら。※終了しました。
おじいちゃんものなちゃんも母も世を去り、あのピアノの部屋も、いまは存在しません。
チッチとサリー永遠の片思いにも、終わりが訪れて思い出になりました。
みつはしさんの「青春の輝きは持ち続けられる。チッチとサリーの青春の思い出から、未来へ進む勇気を持ってもらえたら本望です」というメッセージのように
あの部屋の思い出も、そこから未来に続くある種の出口、あるいは入り口として、心に持ち続けていられたらと思いました。
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余談ですが、ことばらんどの1階に「お宝展示」として三島由紀夫『巨なる友』と遠藤周作『サドと現代』の直筆原稿が展示してあって。
え!?直筆!?なんでこんなところに!?
目を疑いました。
三島由紀夫って、字もすごく美しいんだね〜。
遠藤周作はどの文字もちょっと左に傾いていて、なんかわかるって思いました(笑)
どちらの原稿にもがっつり赤が入っていて、遠藤周作に至っては原稿が切り貼りされていました。
食いつきで見ていたら旦那ちゃんに置き去りにされたけど。
創作の過程をみるのは面白いものです。